焼け石に水

数ヶ月前からの苛立が、今月の5日の夜、ある些細なことをきっかけに暗闇の中で破裂した。苛立は憤りとなり、渋谷の街を駅へと向かう自分の足取りを加速させた。もうここ何年も我慢の限界を越えて憤りとなることなどまったくなかった。しかしこの件だけは有耶無耶に出来ないのは、何しろそれは仕事であり、金銭にまつわる話だからということだ。渋谷の街を切り裂くように歩きながら、この苛立を通り越してしまった憤りなど、もはや暴力でしか解決できないとすら感じたりもした。とにかく説明責任すら果たさないあの男の顔か、腹か、あるいはさらにその下かに渾身の力を込めて暴力を行使しない限り腹の虫が収まらない、と体全身の血がすべて頭まで逆上したかのように憤っていた。あるいは現金揃えててめぇで頭下げにきやがれと電話越しに罵声を浴びせたい気分になった。駅のホームに辿り着けど、数日前から電話しても留守電にメッセージを残せども梨の礫であるから、さてどのように連絡を取るかということを思案し、毎日のように着信を残してやるか、直接自宅まで乗り込むかなどとありとあらゆる行使する術を考え、電車に乗れども頭に血は昇りっ放しで、つり革をいつもよりきつく握り締めていた。そんな自分の前には茶髪で巻き髪の年頃は20代後半ぐらいの女性が座っていて、パリだかの観光雑誌を眺めていた。あるとき彼女はふと雑誌を閉じて俯いていたのだけど、気がつくと、彼女の両頬には涙が伝っていたのだった。彼女は鞄からタオルを取り出し、涙を拭った。なんだかそれを見ていたら、憤りが少し収まっていった。電車を降りる頃には殺気立った気もすっかり落ち着いて、彼女が突如何故泣き出したかはわからないが、彼女にありがとうと言いたくなったものだ。この話を女友達にしたらば「電車は泣きやすくなる」とか「泣きたくなる」と言っていた。

今年下半期期待する映画の一本は、サム・ライミの新作「Drag Me To Hell」で、その邦題が「スペル」なんだとか。なんだそれ。阿呆か。「Hell」がついているのに何故「地獄の・・」ということにならないのか疑問でしょうがない。最悪でも「ドラッグ・ミー・トゥ・ヘル」だと思うのだけども、今の日本はドラッグという言葉に過剰なまでに反応してしまうから駄目ってことだったりしたらそれはそれで面白い。ここはやはり「私を地獄に連れてって」がいいんじゃないかと思う。
先週はあっという間に仕事が終わる日々で、仕事後にまたHMVにいった。この間は、HMVに着いてから何を買いにきたのかまったく思い出せなくなり、これは健忘症ではないか、まずいぞこの若さで物忘れだなんて洒落にならないもんだとか少し焦りながらも、長らくHMV内をうろつき思い出しを図ったが、考えれば考えるだけ、頭の中がむず痒く感じるだけで、結局その日は手ぶらでHMVを出た。今日こそ買うぞ、Jack Peñateと気張ってHMVに入ると、出てるよWhitneyの新譜・・2枚とも買って帰るも、聞いてないよJack Peñate・・Whitneyを先に聞き始めたら抜け出せなくなってしまったよ、ごめんねJack Peñate・・。SwizzとAliciaはもちろん良いけど、やっぱStarGateが今の自分にはたまらないプロダクションをするから、何度も聞いてしまって、特に"A Song For You"とか最高で、メロメロになってしまう。Eric Hudsonは期待はずれで、これEric Hudsonって感じじゃないじゃんってほどで、ちょっとがっかりだった。ま、最後はR. Kellyのおっさんが最高な仕事をしてる。これはおっさんの新譜も期待できるな。さてそろそろJack Peñate聞くかね。